フラワーデモロンドン(おざわじゅんこ・ぬまちさとこ)
2022年1月のフラワーデモにあたって、英国で去年起きたショッキングな事件とその二次被害や影響についてお知らせします。残酷な事件と性暴力の描写があります。お気をつけて読み進めてください。最後にフラワーデモをロンドンで行う意義について私たちが感じていることも書きます。
2021年3月3日のひな祭りの日に、Sarah Everard さんという33歳の女性が現役警察官Wayne Couzensに誘拐されレイプされ殺害されました。彼女は南ロンドンの友人の家から帰宅途中、まったくの偶然に選ばれた被害者でした。
犯人はまだ見ぬ被害者を支配し、性暴力を実行するために非常に長い時間をかけて構想を練っていました。犯行方法は綿密に立てられました。少なくとも一か月以上かけて、犯人はロンドン近郊ケントの自宅から離れたロンドン市街を探しまわり、この性暴力にめぼしい場所として南ロンドンのクラパムが選びました。さらには犯行の何日間か前にはその日に向けて誘拐に使うためのレンタカーを手配し、Amazonから車の内装を守るシートも注文する用意周到ぶりでした。そして3月3日水曜日の朝、12時間の米国大使館での警備夜勤を終えた後、犯人は一人でいる若い女性を、つまり自分が誘拐しレイプする獲物の女性を物色しに繰り出しました。
実は犯人は約2か月前2020年1月にコロナパトロール隊としてロックダウン中の人々を取り締まる業務についていました。その経験から得た知識・経験と警察が発行した逮捕状を犯行に使いました。
コロナウィルスのガイドラインに従っていないことを理由に逮捕すると嘘をつきSarahさんを巧妙に誘拐しました。Sarahさんを車で連れ去る際には手錠までかけていました。この瞬間は、車で通り過ぎたカップルによって目撃されていましたが、私服警官の合法的な逮捕のようにみえたため、彼らは介入しませんでした。誘拐全体には5分もかからなかったのです。
その後彼女はレイプされ殺害され、さらに遺体は犯人の手で燃やされました。
この残酷な事件はとても衝撃的ですが、同時に私たちにとってなじみのある出来事とも言えます。
実際、女性の殺害はどのくらい一般的でしょうか?2019年4月から2020年3月までの1年間に、英国(イングランド、スコットランド、ウェールズ)で207人の女性が死亡しました。これは、殺人事件被害者の約4分の1が女性であることを意味します。三日に一人の割合で女性が男性によって殺されている計算になります。Sarahさんのように無差別に選ばれた被害でなく、家族・知り合いに殺される女性(DVの被害者)が大多数です。(日本はで同時期に殺害された女性は349人https://cdp-japan.jp/campaign/gender_equality/fact/009 これは殺人事件の被害総数の824件と比較すると5対4。日本は自殺も他殺も女性の割合が諸外国より高いです)
事件を受けて英国全土の女性がSNSを利用して、自分たちの経験や、安全のために何をしているかを発信しました。尾行され、嫌がらせを受け、キャットコール(ヒューなどとはやすことで性的対象にしていることを思い知らせること)、暴行され、陰部を見せられたという被害体験がTwitterなどで拡散されました。女性が危険を感じることは”よくあること”なのです。ある女性はラジオで「私が初めてキャットコールされたとき、私はたったの12歳でした。それ以来、私たちはずっと”自主規制”しているんです。考えてみれば私たちは、自分が着る服や、飲酒(する環境)など、すべてを管理しています。無意識かもしれません。夜道を歩くときは殴れるように指の間にキーを持っています。ジョギング中はヘッドホンを着けません。ジョギングも歩くのも私たちは明るい場所です。こうやって身を守る努力を続けなければならないことに疲れ果てています。」と発言しました。
警察からは「私服警官が一人で働いていることは稀です。もし私服警官が一人で近づいてきたときはどこから来ているのか、同僚はどこにいるのかなどを確認し、もしも怪しいと思ったら助けを求めるように」という的外れなアドバイスが出されました。これは狙われて殺されたSarahさんがもしそうしていたら被害が防げていたかというのか、という当然の批判を浴びました。
安全のためには街灯に費用がかけられました。でもこれは街の明るさの問題でしょうか。
事件の翌週、Reclaim these Streets(通りを取り戻す)の旗の下で追悼集会が行われました。
Sarahさんが最後に目撃されたクラパムで開かれた集会を妨害する動きもありました。そして警察庁前の集会に参加した数百人のうち4人が逮捕されました。コロナウイルス規制を言い訳に使ったこの逮捕と集会の禁止にはたくさんの批判が集まりました。
集まった人たちのプライバシーや表現の自由、集会と結社の自由に対する権利などを、ことごとく警察が軽視していると指摘され、現役警察官が容疑者(当時)となった事件への警察当局の取り組み方が疑問視されました。
女性を標的にした暴力をなかったものかのように扱う、組織的な女性蔑視を故意に隠そうとする、警察と公的機関の組織文化が露呈しました。警察官の地位を利用した卑劣な罪を犯したこの人物を、終身刑が言い渡された今こそは免職したものの、それまで警察官としてふさわしいと雇い続けていた組織に対する市民の信頼は損なわれたままです。
英国政府はテロリスト対策予算として毎年3500億円相当を警察に拠出しています。テロリスト事件の被害者数の15倍の女性が殺されていますが、女性被害を止めるための予算は非常に限られたものにとどまっています。その偏りが指摘され続けているにもかかわらずです。
ながーくなりましたがこのように英国と日本の現状にはたくさんの共通点があり、私たちがロンドンでフラワーデモをすることはこの英国社会で起きた・起きている性暴力をなかったことにしない、その意味が第一にあります。
そして、もうひとつは日本の現状を英国に住む人に知ってもらいたいという気持ちがあります。
日本=安全な高所得国・犯罪の少ない技術の進んだCoolな国というイメージを持っている人は少なくありません。
日本で女性やマイノリティが実際にどんな扱いを受けているのか、おかしいと声をあげた女性がどんな苛烈なバッシングを受けているかを知る人は残念ながら少ないです。
日本の産科医療における暴力や雇用の不平等など日常的に女性が受けている不当な扱いや、国連人権委員会・女性差別撤廃委員会などから受けている度々の勧告を日本がことごとく無視し続けている事実を国際的なメディアは十分に伝えてくれません。
サバイバーである私たちがロンドンの駅前や日本語学校前でStandingをすることは日本の女性と英国の女性をつなぐだけでなく、世界の女性の連帯の懸け橋になると信じています。
2019年4月に日本で始まり、日本と世界の各地に広まるフラワーデモはエンパワーメントと決意の行動です。
性暴力体験を語ることで私たちの身体と声を取り戻す。
性暴力をなかったことにしない。
声をあげる、その力が私たち女性にはあります。
世界中の女性のなかにある力です。
その力を守って繋がって大きくしていきましょう。
そして性別、セクシュアリティにかかわらず性暴力をうけた被害者の声と共に、性暴力のない世界に向けて進んでいきましょう。
(参考)
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