フラワーデモふくおか・黒瀬まり子
2019年3月に立て続けに出た4件の性暴力裁判の無罪判決への抗議のため、そして被害者への#With Youの思いを示すため2019年4月11日に東京ではじまったフラワーデモ。「With Youの気持ちを込め花を持って集まりましょう」との呼びかけのもと、3年前のあの夜にスピーチされた方々の熱い声、そしてそこに集った多くのみなさんの息づかいや力強い拍手に、私はずっと励まされ勇気づけられてきました。フラワーデモのホームページから聴くことができる東京・行幸通りで行われたこのはじまりの日のスピーチ音声を、今も時折、聴きかえします。
その後、毎月11日に、全国のどこかで花を持って集まるようになり、開催地は1年かけて全国へと広がり4年目に入りました。その間に、無罪判決4件中3件が逆転有罪となりました。性暴力がメディアで取り上げられることも増えてきました。ひどい事件はあとを絶ちません。それでも上げた声が、確かに何かを動かしたことはあったのです。刑法改正はまだ実現していませんが、2022年の今、自分が暮らしている地域に、そして全国にフラワーデモという場所がある。何かあったら、声を上げ、共有し、できることを即座にその都度行っていく。その基盤が、この3年間で強くなったことは確かです。
フラワーデモは、続けることを目的にしたものではありません。それでもこうして続いてきたのは、フラワーデモに集う個々人が性暴力被害者への共感や思いやりを持ち寄り、その痛みに寄り添う意志を持って被害者の声に耳を傾け、「性暴力のない安心できる社会」という同じ夢を描く人々とつながれる、やさしくあたたかな場であったからだと思います。
4年目に入った今、私が思い描く夢を語らせてください。
この3年、「11日」という特別な一日しか性暴力について語らないのはもったいない。そう思い、私は行く先々でフラワーデモを話題にしてきました。私が今いる場所を、性暴力について語れる小さなフラワーデモ空間にしよう。暮らしの中のシングル・フラワーデモの試みです。これまで、何十年も前の子ども時代の性被害から、つい数日前に起こった出来事まで、思いがけずたくさんの#Me Tooの声に出会いました。長年語ることもないまま記憶の吹きだまりに追いやっていた過去のあの体験も性暴力だったと、つながった瞬間に立ち会うことも、度々ありました。子ども時代にそれと分からず受けた性暴力も、現在進行形で起こり続けている性暴力も、私たちが想像する以上にずっと多いのだと実感しています。起こってしまったことに戸惑い、傷つき、その痛みを抱えながら生きつづける苦労を背負わされるのは、いつだって被害者です。
私たちにはフラワーデモがある。けれど、私たちが暮らす日常に、被害者に寄せる#With Youの意思は、どれだけ届いているでしょうか。悪いのは加害者だという認識は、どれだけ広がっているでしょうか。未来に起こるかもしれない性暴力の芽を、どの程度丁寧に摘みとることができているでしょうか。
私たちには社会を、未来を、変える力がある。自分と他者の境界線を尊重した暮らしを実践する。同意と境界線について身近な人に伝える。誰かにNOを言われたら真剣に受けとめてやめる。子どもでも大人でも、誰かが嫌がっていることをしつづけていたら、間に入ってとめる。声を上げる。声を上げた人を1人にしない。二次被害に繋がる発言はとめ、責められるべきは加害者だと伝える。性暴力はないと決めつけず、今ここで起こっている可能性を頭におき、性暴力に気づける目を育む。自分の場所で、自分を信じて、その日そのときできることを重ねつづける。そんな風に「性暴力がない社会」に向けて、フラワーデモから日常に持ち帰った“私たちが安心できる居場所”の種を播き、みなさんと共に大切に育てていきたいのです。そして、やがてそこに広がる気持ちのよい景色を、みなさんと一緒に見てみたい。それが2022年7月の私の夢です。
フラワーデモの灯が光の海をなし、暗闇を明るく隈無く照らしますように。月に一度現れる美しい満月としてではなく、いつでも私たち一人一人が手に持ち、行く先々を照らすことができるらんたんのように。
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