
〈判決内容〉
3月に報道された一連の4件の事案について、事案の概要、罪名、検察側(被害者)の主張、弁護人側(被告側)の主張、事実認定・裁判所の判定等(どのような事実を認定したか)、無罪の理由を整理して記しました。長年性暴力被害者に寄り添い弁護を続けてきた村田智子さんに作成していただき、この表をもとに5月30日に刑事司法の勉強会を行いました。
当日の勉強会での感想の多くは「日本語がわからない」というものでした。「法律用語」が分からないというよりは、
「無罪の理由」の論建てがあまりにも乱暴で論理的でないためです。
これでは「故意」がなかったといえばどのような状況でも無罪になってしまうのではないか。せめて、「故意の有無」を一般常識に照らし合わせたもので判断するべできではないか(例えば乱暴な例えではあるけど、心臓を狙って刺した上で「殺すつもりはなかった」の言い訳が通じないように)。刑法改正するまでもなく、十分に今の刑法でも問題のある判決なのではないかというのが勉強会を通して実感したことでした。
また、一連の無罪判決は決して司法のジェンダー感覚の問題だけではないことも浮き彫りになりました。
3月19日の判決は裁判員裁判です。深夜の事件でした。深夜にコンビニから出てきた時に見知らぬ男性に執拗に声をかけられ、そのまま家に帰れば家を特定されてしまう恐怖、電話番号を教えたら帰してもらえるか、少し話につきあったら帰してもらえるか・・・とにかく家を特定されないように、自分の身を守るために強制された行為が、「ナンパ」として捉えられるような判決内容には衝撃を受けます。抗拒不能が認められながらも出される一連の無罪判決、娘への性暴行が無罪になる判決の背景には、やはり社会の性暴力問題への無関心・無知、性差別が背景にあります。
このような痛みに、これ以上、もう、沈黙したくはない。
そのために、共に変えていきましょう。
事案概要
被告人が、飲食店において、被害者が飲酒酩酊状態のために抗拒不能であるのに乗じて、姦淫したという事案
罪名
被害者は抗拒不能の状態であった。しかし・被害者は抗拒不能ではあったが、ある程度言葉を発するこことができる状態であったこと、それほど時間が経たないうちに「やめて」と言ったことから、飲酒による酩酊から覚めつつある状態であったといえるので、外部から見て被害者に意識があるかのような状態であったといえる。・被告人はその場にいた他の者から「被害者はあなたのことが良いと言ってるよ」ということを言われており、その気になった・被害者は被告人に明確な拒絶の意思を示していない・現場には他の者もおり、被告人が警察に通されるような行為だと認識しつつ性行為をしたとは考え難い→故意がなかったという被告人の供述の信用性を否定することができない
検察側の主張
弁護士側の主張
無罪の理由
準強姦罪(当時)
被害者は飲酒酩酊しており抗拒不能状態だった・被告人はこのような状況を認識していた
被害者は抗拒不能の状態にはなかった・被告人は被害者が抗拒不能の状態にあるとは認識しておらず、故意がない
事実認定・裁判所の判断等
以下の事実等を認定・被害者が被告人が性交した際に酩酊していたこと・被害者が被害後、他の男性から体を触られた際に「やめて」と言ったこと
2019.03.19〈静岡地裁浜松支部判決〉
事案概要
罪名
検察側の主張
弁護士側の主張
事実認定/
裁判所の判断等
無罪の理由
・被告人の暴行は被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであはあったが、暴行の程度が強いものであったとまでは認められない・被害者が抵抗できなかった理由は、精神的な理由によるもの・被告人からみて明かにそれとわかるような形での抵抗を示すことができていない→被告人が、被害者が被告人との口腔性交を拒否することがとても難しい状態であったこと、あるいはそのような状態であることを基礎づける事情を認識していたとは認められないため、故意が認められない
・被害者の証言の内、被告人の暴行部分、口腔性交部分等は信用できる。この点に反する被告人の供述は信用できない・口腔性交と障害との因果関係を認める・被害者の「頭が真っ白になった」旨の供述は信用ができ、被告人の加えた暴行が被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであったことは認める
・被告人は同意のうえで被害者の体を触ったが、陰部は触っていない・被告人は口腔性交を試みようとしたが、被害者が嫌がる素振りをしたのでやめた。暴行を加えたり、口腔性交をしたことはなかった。被告人の行為は被害者の反抗を著しく困難にする程度であったとはいえない
・被告人の暴行は被害者の反抗を著しく困難にする程度であった・被告人は被害者に口腔性交した
強制性交等致傷罪
被告人が、屋外で声をかけたばかりの被害者に対し、ベンチに座らせて陰部を触るなどした後、口に指を入れて強引に開く等の暴行を加えて口腔性交等をし、もって唇挫傷、顎関節捻挫等の障害を負わせた事案
2019.03.26〈名古屋地裁岡崎支部判決〉
事案概要
罪名
検察側の主張
弁護士側の主張
事実認定/
裁判所の判断等
無罪の理由
実父が19才の娘に対し、2回(会社の会議室、ホテル)性交を強制した事案。実父は被害者に対して5年以上にわたって性的虐待をしていた
準強制性交罪
被害 者は・長年にわたる被告人による性的虐待を受けてきたこと・実母と不仲で相談できなかったこと・弟たちが学校に行けなくなってしまうとの思いから警察に被害申告できなかったこと・専門学校に入学する際に被告人から金銭的援助を受けたこと等によって、被告人からの性交等に抵抗することが著しく困難であった(=心理的抗拒不能)
・被害者は抗拒不能の状態にはなかった・被告人は被害者が抗拒不能の状態にあるとは認識しておらず、故意がない
・被告人の供述により被害者の供述のほうが信用できるとし、5年以上にわたる性的虐待を認定・各性行為は被害者の意に反するものであったことを認定・被害者が心理的に抵抗できない状況であった旨の精神科医の意見書につき「高い信用性が認められる」
被害者は抗拒不能状態ではなかった(主な理由)・「心理的抗拒不能」の解釈について「暴行脅迫が用いられた場合と同程度に被害者の性的自由が侵害された場合に限るべき」→
「性交を承諾・認容する以外の行為を期待することが著しく困難な心理状態と認められる場合」と解すべき
・被害者が家を出て一人暮らしすることも検討したこと等に照らし、被害者が被告人に逆らうことが全くできないとまでは認めがたい→
被告人は被害者を精神的な支配下においていたものの、被害者が服従・盲従せざるを得ない強い支配関係にあったとまではいえない
・一定程度自己の意思に基づき、日常生活を送っていたこと、弟や友人に被害を相談していたこと、第2の被害事実の前に被告人に勧められその車に乗ったこと等からして、性交に応じるほかには選択肢が一切ないと思い込まされていた場合(心理的抗拒不能の場合)とは異なる
2019.03.28〈静岡地裁判決〉
犯罪事実(強姦)を裏付ける証拠がな いため、無罪
・被害者は「全体として相当に具体的な内容の証言をしていると評価できる」しかし・部屋の間取り等からして、他の家族が被害事実に気がつかなかったというのは不自然・PTSDテストで被害を誇張して申告することはありうる・被害者が性的知識がなかったとは言い切れない・いつ被害を受けたのかについて被害者の証言が変遷している→被害者の証言は信用できない
性行為自体を否定
被害者は:被害者の供述は具体的であり信用できる・被害者の年齢からみて性的知識は乏しいはずであり、嘘の供述はできない・同室にいた他の家族が気づかなかった可能性は十分考えられる・被害発覚の経緯が自然である・PTSD の数値が高かった
準強制性交罪
実父が、当時12才の娘に性交していたということで強姦罪で起訴された事案
※12才は性交同意年齢未満なので、暴行脅迫がなくと強姦罪成立
無罪の理由
事実認定/
裁判所の判断等
弁護士側の主張
検察側の主張
罪名